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February 26 , 2016

特集 「空中艦隊構想」


 エメリア・エストバキア戦争(:EE戦争)の開戦から5ヶ月。ケセド島の防衛に成功したエメリア軍は現在、アネア大陸西部に位置するラルゴムビーチに上陸。首都奪還へ向け確実に歩みを進めている。壊滅的な打撃を受けつつも、徐々に「抵抗」と呼べる戦力に結集しつつあるエメリア軍の動向は、エメリア本土のほぼ全域を支配下に置いているエストバキア軍にとって決して楽観視できるものではない。しかしこの戦線に投入したとされる「ある兵器」の存在が、エストバキアの筋書きを確実なものにしている。
◆「内戦を経たエストバキアの"総戦力"」
 2015年8月30日、エストバキア軍は国境を越え、エメリアの首都グレースメリアに侵攻した。豊富な装備を供え高い錬度を誇るエメリア軍であったが、エストバキア軍の圧倒的な攻撃の前に首都からの撤退を余儀なくされる。その2ヶ月後、エストバキア軍はエメリア本土のほぼ全域を支配下に置いた。
「この空は我々エストバキアの物だ。彼らもじきに思い出すだろう。」 エストバキアの国営TV放送では、中道派の議員でさえも勝利を確信しているかのような発言を見せる。これを裏打ちするのは、世界有数の組織であるエメリア軍から本土を奪取し得たエストバキアの総合的な軍事力に違いはない。とはいえ、この侵攻はエストバキア自身の長い内戦を経た上でのものだ。東部軍閥、リエース派統一戦線、諸島連合、北部高地派といったエストバキア各軍閥の兵力を総和したとしても、今回の様な大規模戦力には達しない。はたしてこの強大な力は如何にして生まれたのだろうか。
◆「見えてきたEE戦争の心臓」
 現在のエストバキア軍戦力を知る上で、9月のサン・ロマ攻防戦に参加していたエメリア空軍パイロットのアレン氏(仮名)から興味深い証言を得ることができた。当日、彼はサン・ロマ上空で哨戒任務に就いていた。(尚、アレン氏は現在も作戦遂行中であるため、諸般の事情を鑑みて仮名とする)
「管制が慌てた声で巡航ミサイルの接近を知らせてきた。私は機首を090(東)に向け、迎撃にむかった」
 まもなくアレン氏は巡航ミサイルを捕捉、撃墜を試みた。その瞬間、巡航ミサイルは空中で炸裂し「巨大な火球」を作り出した。アレン氏は寸前でこれをかわしたが機体のコントロールを失い緊急脱出、サン・ロマから東に20km離れた海岸へ降りたった。頭上を途切れることなく通過する巡航ミサイルは、サン・ロマ全体を覆う様に巨大な炎の帯を作り続けていたという。
 このときアレン氏は2つの機影を目撃している。ひとつは巡航ミサイルと同じ方角からサン・ロマへ向かう、赤黒く塗装された戦闘機。もうひとつは巨大な航空機影である。
「東に目をやると今度は別の機影が見えた。はじめは先に通過した戦闘機の後続かと思ったが、それはとてつもなく巨大で、信じ難い事に翼が雲を切り裂く程に大きかった。ニクス山が手前に見えていたので少なくとも30〜40km先に居たと思う」
各国の軍事白書を確認する限り、アレン氏の証言にあるような"巨大な航空機"はどの国でも保有されておらず、運用試験も行われていない。また戦争中の空域を他国の航空機が飛行することは考え難く、これはエストバキア軍が装備している航空戦力の一部と想定される。この証言以外にもEE戦各地にて"巨大な機影"を目撃したという噂がエメリア軍兵士の間に流れているが、両陣営のスポークスマンからはこの情報について公式に言及されたことは無い。
◆「空中艦隊構想」
 しかしその手がかりとして、エストバキア軍が過去試みた軍事計画「空中艦隊構想(:Aerial Fleet Initiative)」がある。これは内戦時代、東部軍閥のドヴロニク上級大将(現エストバキア軍総司令官)が提唱したものであり、「広範囲に亘る航空優勢を継続して確立する新戦略及び戦術」と定義づけられた。言わばアネア大陸全土に展開できる制空システムの構築を目的とする計画であり、長距離ミサイルによる攻撃と空中からの艦載機運用によって実現するとされる。
 「空中からの艦載機運用」とは、おそらく空母と同等の艦載機の発着、搭載能力を持った航空機の展開を指すと思われるが、その実現には高い技術力と莫大な資金が必要と想定された。しかし1970年以降、エストバキア軍の装備のほとんどはベルカ公国や隣国のユークトバニアから調達されており、国内での兵器開発技術の蓄積は特筆されたものではない。また、1995年に起きたベルカ戦争の結果、最大の供給元であったベルカ公国が敗戦、2002年には国内情勢の悪化を理由に大国オーシアやエメリアなどが参加する戦略物資輸出規制の対象国に指定され、他国から新たな技術を取り入れることが更に困難になっている。それに加え今もなおユリシーズによりもたらされた災害から立ち直れていないことあり、その実現は不可能だと思われていた。
 だが、現在のエストバキア軍の強固な軍事力は、この不可能と思われた「空中艦隊構想」の実現化によって成し得たのではないか。サン・ロマでエストバキア軍がとった戦術は空中艦隊構想に合致する点が多い。また、アレン氏が目撃した「赤黒い機体」は、現在グレースメリアに拠点を置くエストバキア空軍の第009戦術飛行隊と思われる。もし、第009戦術飛行隊がサン・ロマに遠征したとするならば、サン・ロマからグレースメリア間には基地として機能する滑走路は存在しないため、サン・ロマで戦闘を行うには空母からの運用か空中給油を受ける必要がある。だがエストバキアは北極に接しており、北部の氷海を航行するには困難を極めるため、空母による展開の線も消える。
 また別の事例として、アレン氏の証言に酷似する「巨大な機影」は、2015年4月の時点でユークトバニアの偵察衛星によって捕えられていた事も明らかになった。その機影が初めて捕えられたのはエストバキア南東の沿岸付近で、全幅700m〜1km、全長200m〜400mに及び、"エイ"のような形状をしていたという。機影は3日間に亘りエストバキア領空を飛行し続け、4日目にエストバキア北東沖で消失した。「巨大な機影」が消失した付近にはエストバキアの石油資源開発公社が管理する大規模な石油採掘施設が存在する。この施設は1990年に一度放棄されたが、2008年に東部軍閥が接収、改修され、その予想埋蔵量に不釣合いな石油採掘施設群が形成されている。
 この施設の衛星写真をアレン氏に確認してもらったところ、「翼(全幅)はこれくらい大きかった」と述べた。
 巡航ミサイルによるものと思われる「巨大な火球」はEE戦争初期のグレースメリア戦でも目撃されており、直径1km前後の火の球が地域一帯を制圧するように複数が同時に現れたという。エメリア軍はグレースメリア空軍基地の全戦力に加え、近海で訓練飛行中であった第2空母航空団を展開、陸軍の第9旅団も加わり首都防衛に当たっていたが、火球によりその7割を失う被害を受けている。
 これ以降、2015年11月までの期間にエメリア軍の撤退の動きにあわせるようにエメリア各地で「巨大な火球」による攻撃が多数目撃されている。
◆アネア大陸に予測される未来
 「空中艦隊構想」の概要と目撃証言から、軍事アナリストのヴィンセント・ボールドウィン氏は、その戦力の試算と今後予測される可能性について次のように分析する。
 ・射程3000km前後で最新の誘導方式を採用した爆風で空間を制圧する巡航ミサイル
 ・72時間程度の滞空能力、巡航ミサイルの連続発射能力、艦載機の運用能力を備えた巨大航空機
 ・巨大航空機から運用される艦載戦闘攻撃機
 この空中艦隊は、航空機であるため地形の制約を受けず、地球上の如何なる場所においても航空機を運用し、長射程の巡航ミサイルで攻撃を加えられる。極端に言えば、滑走路を占拠することなく航空優勢を確保しながら敵国の最深部まで侵攻できるということだ。それに加え、その機動力と3日程度の滞空能力により長期間の航空優勢の確保が可能で、これは国土の約半分を山岳地帯でしめるエストバキアや、オーシア、ユークバニアなど深い懐を持つ国においてその有効性は発揮され、同様にエメリアにおいてもその有効性は損なわれることはない。また、空母のように単独での航空戦も可能で何らかの対空手段を持つと思われるが、敵機に接近を許した場合には巡航ミサイルを使えずにその戦力は半減する可能性がある。だがその弱点を持って余りある戦果が見込まれるだろうと分析する。
 しかし、「空中艦隊構想」の実現した可能性については、エストバキア内戦直前までのエストバキア軍の戦力と現在までのEE戦争の結果とを比較し「何らかの戦力強化がされた可能性は十分にありえる」としながらも、空中艦隊構想が実現された可能性については、技術力や資金源には不明な点が多いため懐疑的な見方もしている。これは今後、首都奪還に向けて本格的に動き出したエメリア軍に対するエストバキア軍の動きで明らかになってくるだろう。
最後に、ボールドウィン氏は次のように語った。
「過去に超巨大航空機の飛行記録は残っているが、艦載機を搭載してそれを運用する航空機は史上初ではないだろうか。空中艦隊構想が実現されているのであれば、現在のミリタリーバランスを塗り替える恐るべき兵器といえるだろう。それはエメリアだけでなく、世界のどの国も脅威として認識するはずだ」